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名古屋地方裁判所 昭和43年(ワ)1440号 判決

原告

山崎勝

被告

鎌倉市夫

ほか一名

主文

一、被告らは原告に対し、各自金一、二二六、四九八円と、これに対する昭和四二年一一月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払うべし。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

四、この判決は、第一項にかぎり、かりに執行することができる。

事実

第一、申立

原告訴訟代理人は「被告らは原告に対し、各自金二、〇〇〇、〇〇〇円と、これに対する昭和四二年一一月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は被告らの連帯負担とする」との判決と仮執行の宣言を求め、被告ら訴訟代理人らは「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求めた。

第二、請求の原因

一、本件事故

原告は、つぎのような交通事故によつて受傷した。

(一)  日時 昭和四二年一一月三日午前八時三〇分頃

(二)  場所 岡崎市大和町字西島三〇番地先の県道上

(三)  加害車 被告鎌倉運転の普通貨物自動車(三河四そ七四六七号)

(四)  被害車 原告運転の普通乗用自動車(三河五な七二六二号)

(五)  態様 原告が被害車を運転して、幅員約七・六米の県道を北東進中、被告鎌倉が加害車を運転して、原告の進行方向からみて左斜めに交さする幅員三米の小道から右折して、本件県道上に進入し、被害車の右前部に加害車の右側部を衝突させた。

(六)  受傷の程度 脳蓋傷頸部捻挫、左下腿挫創、腰部打撲挫傷などの傷害を負い、昭和四二年一一月三日から昭和四三年一月二〇日まで岡崎市長坂記念病院に入院加療し、さらに昭和四四年二月二一日まで富士病院へ通院加療(通院実日数約八〇日)した。現在、頭痛などが残り、中部労災病院でこの症状は自動車損害賠償保障法によう後遺症状第一二級に該当するとの診断を受けている。

二、被告らの責任

(一)  被告鎌倉について

本件事故は、被告鎌倉が加害車を運転して、小道から本件県道に進入するさい、県道上の走行車両の状況に充分な注意を払わず、被害車の前面を通過できると軽信して、一旦停車をせずに走行した過失によつて発生したもので、民法七〇九条の不法行為者として責任がある。

(二)  被告宮本について

被告宮本は加害車を所有し、事故当時加害車を従業員の被告鎌倉に運転させ、仕事場へ出勤させていたもので、自動車損害賠償保障法三条と民法七一五条により責任がある。

三、損害の数額

(一)  治療関連費 五六、八〇〇円

(イ) 交通費 三、二〇〇円

(ロ) 附添費 五三、六〇〇円

(二)  休業による損失 一、一〇六、三八〇円

原告は、昭和四一年六月から殖産住宅相互株式会社豊橋支店に勤務し、営業を担当していたが、本件事故のため休業し、そのため超過報酬(各月ごとの契約額のうちから規定契約額を超過したとき歩合給として支給される報酬)の減収分一九三、六〇〇円と継続報酬(顧客との契約の翌月から四カ月間継続して掛金の払込がされた場合の報酬)、販売報酬(規定回数積立が完了し、顧客との間に給付契約が継続されたときの報酬)、期末計算建築報酬(半期ごとに建物契約締結口数を積算し、期末に支給される報酬)などの減収分九一二、七八〇円、合計一、一〇六、三八〇円の損害をうけた。

(三)  慰藉料 八六七、三二六円

原告は本件事故により長期間入院と通院をし、なお現在頭痛、めまいなどの後遺症状になやまされており、この精神的苦痛を慰藉するには八六七、三二六円が相当である。

(四)  被害車の修理代 一九五、三四〇円

(五)  弁護士費用 一二〇、〇〇〇円

以上損害合計 二、三四五、八四六円

ただし、原告は自動車損害賠償保障法による保険金三一〇、〇〇〇円を受領したので、これを損害額から内入分として控除すると残金は二、〇三五、八四六円となる。

四、請求額

よつて、原告は被告らに対し、各自本件交通事故にもとづく損害の内金二、〇〇〇、〇〇〇円と、これに対する事故の翌日である昭和四二年一一月四日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三、被告らの答弁と主張

一、請求の原因一、二の事実および同三の事実のうち、原告が保険金三一〇、〇〇〇円を受領したことは認める。その余の事実は知らない。

二、本件事故は原告にも過失がある。すなわち、原告は制限速度を超えて時速六〇キロメートル以上で走行し、かつ、本件交さ点に加害車がすでに進入しているにもかかわらず減速することなく交さ点に進入して事故を惹起したものである。

第四、証拠〔略〕

理由

第一、本件事故の発生と被告らの責任

請求の原因一、二の各事実は当時者間に争いのないところであり、同事実によると、本件事故に関し、被告鎌倉は民法七〇九条により、また被告宮本は自動車損害賠償保障法三条と民法七一五条により、原告のうけた損害を賠償する責任がある。

第二、損害

一、治療関連費 五六、八〇〇円

原告は本件事故のため昭和四二年一一月三日から昭和四三年一月二〇日まで、岡崎市能見町所在の長坂記念病院に入院し、その間昭和四二年一一月一五日から昭和四三年一月二〇日まで、附添い看護をうけた。そのため一日八〇〇円の割合による六七日分の附添い費五三、六〇〇円を要した。また右病院退院後昭和四三年一月二二日から昭和四四年二月二一日まで知立町大字牛田所在の富士病院へ通院加療して実日数七、八〇日を要し、安城市の自宅から電車による往復料金に少くとも三、二〇〇円の交通費を要した(〔証拠略〕)。

二、休業による損失 一、〇〇〇、〇〇〇円

原告は昭和四一年六月から殖産住宅相互株式会社豊橋支店に勤務し、営業を担当していたが、報酬として、給料のほか超過報酬、継続報酬、販売報酬、期末計算建築報酬などを受給していたところ、本件事故のため給料以外のものについては、事故前一〇カ月の収入と事故後一〇カ月の収入と対比し、相当な減収となつた。これは本件事故により休業を余儀なくされ、そのため受けた損害である。すなわち、超過報酬(割当契約額を超過したとき支給される報酬)については、事故前の昭和四二年一月から一〇月までの超過報酬は三五六、五〇〇円であつたところ、事故後の昭和四二年一一月から昭和四三年八月までの超過報酬は一六二、九〇〇円であり、その差額一九三、六〇〇円が減収分となる。つぎに、継続報酬(契約継続の翌月から四カ月継続して掛金の払込がされた場合の報酬)、販売報酬(規定の積立が完了し、顧客との間に建物給付契約が締結されたときの報酬)、期末計算建築報酬(半期ごとに建物契約口数を積算して支給される報酬)については、契約締結後長期間にわたつて逐次支給されるため、減収分の推算はかならずしも正確でない。しかし、本件事故前後の一〇カ月の契約高に、従前の実績による契約継続の割合(継続率)を乗じ、その差を算出することによつて、その減収分を算出すると、事故後の契約減少高は、契約口数一口について三、三〇〇円の割合による二七六・六口分であり、減収金額は九一二、七八〇円となる。したがつて、前記超過報酬の減収分一九三、六〇〇円と、その余の右報酬減収分九一二、七八〇円の合計一、一〇六、三八〇円が、原告の休業による損失と一応考えられる。しかし、前述のように、原告の収入は変動がはげしく、右の推算も必らずしも正確とはいえない点を考え、右推算による減収分のうち一、〇〇〇、〇〇〇円をもつて、休業による損失と認めるのが相当である(〔証拠略〕)。

三、車両修理費 一九五、三四〇円

本件事故にもとづく原告の車両修理費として一九五、三四〇円が必要とされる(〔証拠略〕)。

四、過失相殺について

(一)  事故の態様

被告鎌倉は加害車を運転し、請求の原因一記載の幅員約三米の小道を時速約四〇キロメートルで進行し、幅員約七・六米の本件県道との交さ点(交通整理の実施されない見通しの悪い交さ点)約一九米前から減速し、交さ点附近まで進行し、県道上の左右を見たところ、右側(西南)から加害車の方向に進行してくる被害車を約五〇米前方に認めたが、被害車が交さ点に入る前に右折できるものと考え、一旦停止をすることなく、時速約一五キロメートルの速度で右折を始め、県道のセンターライン近くまで進んだところ、被害車が前方約一二米の地点まで進行してきたが、被害車の方で避けてくれるものと考えていたところ、その様子もなく進行してきたので、急ブレーキをかけたが間に合わず県道中心附近で衝突した。他方原告は被害車を運転し、本件県道を時速約五〇キロメートルで直進進行中、自車の前方約一〇米の交さ点附近に加害車を発見したが、被害車に進路を譲るものと思つていたところ、右折を始めたので、ブレーキをかけたが間に合わず、県道中心附近で加害車と衝突した(〔証拠略〕)。右認定に反する原、被告本人の供述は信用できない。

(二)  過失の程度

本件のように、交さ点での直進車と右折車の優先権については、直進車は右折しようとしている車両に対し優先権をもち、直進車がまだ交さ点に入つていなくても、相手車がすでに右折しているのでないかぎり優先権を主張できるこというまでもない。したがつて、本件加害車を運転する被告鎌倉は、右折するにあたり、被害車の距離と車速からして、自車が右折できるかどうかの状況判断をして、右折できる場合にかぎつて右折を開始すべきところ、前記認定のように右折しない前に衝突をしたものであるから、結局被害車の距離の車速についてその判断を誤つて右折動作を継続したもので、相当の過失があるものといわねばならない。他面原告は、本件のように交通整理の行われていない交さ点で、左右の見とおしのきかない現場では原則的に優先権があつても徐行をし、加害車の動静を注視し、加害車の右折状況に応じてその避難措置をとるべきところ、前記認定のように徐行をしないまま直進した過失があるものというべきである。そして、過失の割合は被告鎌倉が七〇パーセント、原告が三〇パーセントと認定するのが相当である。

(三)  相殺による損害額

本件事故による原告の損害額は前記第二のとおり合計金一、二五二、一四〇円であるところ、前記のとおり原告に過失が認められるので、原告の過失をその割合に応じて相殺すると、その損害額は八七六、四九八円となる。

五、慰藉料 五六〇、〇〇〇円

原告は、本件事故のため昭和四二年一一月三日から昭和四三年一月二〇日まで入院(七九日)し、退院後昭和四四年二月二一日まで通院加療を継続し、しかも現在頭痛などが残り、自動車損害賠償保障法による後遺症状第一二級に該当する旨の診断をうけ(以上当事者間に争いがない)、このため精神的苦痛を受けたことが認められる。そして、本件事故の態様、原告の過失の程度などを合わせ考えると、慰藉料は金五六〇、〇〇〇円が相当である。

六、保険金の控除

原告が本件事故により、自動車損害賠償保障法にもとづく保険金三一〇、〇〇〇円を受領したことは当事者間に争いのないところであるから、これを前記車両修理費以外の損害額から控除する。

七、弁護士費用 一〇〇、〇〇〇円

原告が本件事故による損害賠償請求に関し、原告代理人を委任し、本件訴訟遂行のため要した費用は、本件事故と相当因果関係にたつ損害と認められるところ、その金額については本件訴訟に関する報酬契約の内容、その他本件訴訟についての諸般の事情、本件訴訟の結果など合わせ考え、金一〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

第三、してみると、原告の本訴請求は被告らに対し、各自金一、二二六、四九八円とこれに対する事故の翌日である昭和四二年一一月四日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について、同法第一九六条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤義則)

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